◆仮王宮での散策 


仮王宮の中庭を二人は腕を組んでそぞろ歩いている。
「こんな人目に立つ場所で二人きりになってもよろしいのですか?」
「……」
「何かと口実はつけているが、こうも頻繁だと陛下の周囲の疑惑を招く」
「……」
マーガレットは並んで歩く大石の顔を見上げる。
制帽の庇の陰になって表情がよく見えない。
「いけないと思うんなら私がお招きに応じなければいいんですがね」
黙り込んだマーガレットを見て大石が自嘲するように片頬だけで笑った。
「あまり一人でおいておくと何を企むかわからないあなたでもあるし」
「……」
「おや? 不機嫌ですね。口を利いてくださらないのですか?」
マーガレットは彼のからかうような笑みをチラッと見た。
「キスしたらご機嫌が直るかな?」
「……」
大石はさっと鋭い眼であたりを一瞥すると、梢の影に立ち止まった。
そしてマーガレットの小さな顔を両手で包んで上向かせ、そっと唇を重ねた。


やわらかな穏やかな口づけだった。
官能をかきたてるより、感情の波を鎮めるような口づけだった。
唇が離れ、マーガレットが目を開けると真顔の大石と目が合った。
「……どうしたのです?」
「初めてお会いしたとき、大石さまは未来を信じるとおっしゃいました……今も信じていらっしゃる?」
「……ええ、信じています」
「私たちの未来も?」
「もちろんです。信じなくては未来は勝ち取れません」
「……大石さまの強さが羨ましい」
マーガレットはうなだれた。
木漏れ日がキラキラと芝生に落ち、鳥のさえずりがどこかの梢から聞こえる。
「では、せめて私を信じてください」
大石が静かに言った。
「私を信じてくれますね?」
マーガレットは顔を上げた。
光の加減で青にも碧にもなるマーガレットの澄んだ瞳が物言いたげに揺れる。
何もかも忘れて大石の腕の中に逃げ込んでしまいたかった。
大石ならどんな難題でも奇策と手腕で片付けてくれそうな気がする。


「信じますわ……」
マーガレットは大石の肩に顔を埋めた。
彼女の苦悩と焦燥の毎日がいかに重苦しいものか大石にも想像がつく。
彼女の重責を思うと大石は胸が痛んだ。
「マーガレット、必ず約束は果たします。それまでどうか……」
大石は彼女の華奢な体を腕の中にすっぽりと包み込んだ。
さまざまな重圧から今このときだけでも彼女を守るように。
「大石さま……」
マーガレットは大石の抱擁の中で涙ぐんだ。
大石の力強い腕の中にいるとだんだんと心が落ち着いてくる。
……ええ、あなたを信じますわ。どんなことがあっても!


「……そろそろ会議の時間です。戻りましょう」
大石の声にマーガレットははっと我に返った。
まるで夢を見ていたような心地だった。
大石が暖かく微笑んでいる。
マーガレットは現実と戦う勇気がふつふつと湧き上がるのを感じた。
「なんだか力が湧いてきました。不思議ね」
……未来を信じます。私にとってあなた以外の未来は考えられないから。
「参りましょう、大石さま」