◆年齢計算・OVA付録編
コンプリートDVD‐BOX付録「兵器大図鑑」に、大石長官について又野監督のコメントがありました。
『人物設定は40〜50ぐらい。特進して元帥に昇格しているので前階級は少将か中将』
ついに公式設定が!
でも、かなりアバウトですね、監督さん。
年齢幅40〜50、前階級は少将か中将。
監督さんのコメントのこの二つのポイントが今回の手懸りです。
今まで大石さんの特進前の階級は中将だったと決めてかかっていましたので、少将と想定したらどうなるか?
さっそく昭和海軍の将官履歴を参考にして検証してまいります。
照和20年、大石さんが少将だった場合。
将官になるとそれまでの大佐までの進級とは違い、選抜制ではありません。
予備役に編入されない限り先任順に進級していくので、後任者が先任者を追い抜いて先に昇進するようなことはありません。
そのため少将でいられる期間はだいたい四年が限度でした。
少将にずっと居座られると、そこで昇進がつっかえて有能な後輩が中将に昇進できなくなります。
中将昇進の見込みのない人は、さっさと予備役に退いて後進に道を譲ることになるのでした。
照和20年、大石さんは少将だった――ということは四年前の照和16年、大石さんは大佐だったということになります。
……えーと、いいんでしょうか、しばらく大石さんが前原さんより下級者になりますが(^^;
照和20年、大石さんが四年目少将だったら、四年前の照和16年、大石さんは六年目大佐です。
前年に少将になったばかりの新米少将だったら、照和16年には大佐三年目。
大石さんがクラスヘッド〜真ん中あたりの席次だったとすると、41期〜47期あたりが該当します。
クラスから年齢を逆算すると1890年〜1900年生まれ、照和20年当時55歳〜45歳となります。
ここでひとつ問題が。
将官の進級は年功序列、追い越し昇進は行わない、という海軍進級制度に従って大石さんを大将に昇進させようとすると、必然的に大石さんより先輩の少将中将をみんな予備役にしなくてはいけないのです。
そういう事態を招くことを恐れたためか、史実において将官の特進は戦死者に対してのみ行われました。
自分より先輩の現役将官が部下になるというのは、年功序列を重んじる軍首脳部では考えられない事態です。
勅任官である将官に対して抜擢進級を行うなんて、とてもできない相談でした。
そんな器用なことが出来たなら、大戦末期まで待たずとも小沢連合艦隊長官はすんなり実現できたことでしょう……。
水雷屋の南雲中将ではなく航空畑の小沢中将が実施部隊の指揮官なら……とは大戦の早くから言われてきたことでしたが、いかんせん南雲さんが先任です。
指揮権について規定した「軍令承行令」という鉄の掟がある以上、小沢さんを南雲さんの上に据えることは絶対実現不可な話でした。
それならば小沢さんを大将に抜擢すればよい、というのが解決策ではありますが、それは小沢さんより先任の中将全員の予備役編入を意味します……。
実際、終戦の二ヶ月半前になって、万策尽きた海軍内に小沢中将を大将にして連合艦隊司令長官にしようという抜擢案が出たのです。
ところが小沢さん本人が大将昇進を固辞したので、米内海相は海軍内の編制のほうを細工して、小沢連合艦隊司令長官を実現させた、といういきさつがありました。
姑息なやり方ですが、小沢中将より先任の将官たちが小沢さんの指揮系統に入らないよう、上手く編制し直して「軍令承行令」をクリアしたわけです。
……小沢さんは情に厚い武人でしたから、自分が先に大将になると先任中将たちを予備役編入させてしまうのが忍び難く、大将昇進を拒否したのだろうと言われてます。
さて、照和20年の元帥乱造に伴い、それまでの中将・古参少将は一斉に予備役入りを余儀なくされた……というようなことが後世海軍にあったかどうか?
前世の大戦末期には中将だけで100名近い人数でした。
艦隊司令官や鎮守府長官や軍令部部長や兵学校校長etcがいっぺんに予備役編入されるとなると、いったいどんな騒動になりますやら。
大石少将が大将に昇進したため、大石さんの前に並んでいた中将少将が全員予備役に編入されてしまった……としたら、当然旭日艦隊の将官は、大石さんの後ろに並んでいた序列が下の後輩ばかりということになります。
もし大石さんが新米少将だった場合は、照和20年当時に大佐以下だった人ばかりである……ということになります。
以下はあくまでイメージの問題なのですが――
あの中村中将が照和20年当時大佐だった……ひょっとして40過ぎだったかもしれないというのはイメージとしていかがですか?
もっと大変なのは牧野大将。
出撃前は大佐だった……んでしょうか、あのお爺ちゃん(失礼)が。
大石さんより先に大将になっていたというのは反則ですよ、それでは牧野さんのほうが先任になって大石さんが命令を下せません。
じつは予備役大将だった……というセコい逃げ道ならありますが。
でも、それはそれで牧野さんは海軍の大先輩ということになり、いくら大石さんでもあんな偉そうな態度はとれなくなります。
どうも大石少将をいきなり元帥に昇進させると、海軍全体に大混乱が生じそうです。
これはやっぱり大石中将が元帥になったと考えたほうが、規模的にまだ穏やかかと思われます。
少なくとも中村さんや牧野さんを無理に若くしなくてもすみますからね。
*荒巻先生の原作には出撃前日まで中将だった、とあります。
さて照和20年、大石さんが中将だったとしたら――大石さんが最年少で兵学校に入学し、かつ優等で卒業すれば――海兵41期、51歳になります。
お誕生日前でしたら50歳なので、これなら監督さんの40〜50歳という設定もギリギリセーフでしょうか?
あと、これは以前にも検証しましたが、照和20年に大石さんが40歳だったとした場合。
大変お若くて結構なんですが、大石さんと前原さんはかつて兵学校の教官と生徒であった――という別のOVA設定を考慮するなら、前原さんは大石さんより七歳以上年下でなければなりません。
つまり照和16年、大石さんが36歳だったとすると、前原さんは29歳の中佐だったことに……小学生が兵学校に入学できるんなら、30歳前に中佐になることも可能なんですがね。
前原さんの年齢から考えると、大石さんを照和20年で45歳以上にしないと無理が生じます。
どう考えても照和20年に大石40歳は無茶であります。
監督さんは『特例ともいえる若い将官です』とコメントをつけておいでですが、特進以前にそもそも40歳の将官という設定にリアリティが無いのです。
昇進するには各階級ごとに年限があり、特別進級するにしても規定があります。
皇族であっても進級に関しては特別扱いをしなかった規則好きの帝国海軍……規格ハズレの若い将官が誕生できるような余地はまったくありません。
「後世だから武官進級令なんて関係ない! 特例ということにしておけば万事OK!」というのも、楽しみ方のひとつではありますが……。
もし軍事的なリアリティを重視するのなら、不自然な階級と年齢というのはなんとも間が抜けて見えるので避けたほうが良いように思えます。
もし監督さんのコメントの『40〜50ぐらい』というのが、大戦の開始から一応の終結までの十年間の大石さんの年齢をさしているのであれば……照和20年で大石44歳、前原37歳。
年限に片目をつぶるとしてもちょっとシンドイ若さなので、あともう数年加齢していただきたいものです。
昭和期海軍としてのリアリティ、という観点から大石長官の年齢を考えますと、一番若くて照和20年で満51歳、というところに落ち着きます。
まだまだこのあと第三次世界大戦まであるという旭日ワールド、少々若く設定しても最終的にはみんな爺になってしまいます。
……諦めて爺軍人に馴染んでしまうほうが楽かも★