◆参謀長 その2


参謀長のお仕事とは?
少し重複いたしますが、前回の「参謀長」ではきちんと説明できなかったので、今一度。
『……参謀長は司令長官を佐(たす)け……』
と艦隊令にあるように、参謀長はまず長官の補佐役でなければなりません。
長官になりかわったつもりで、艦隊のとるべき最良の行動をまず考える……もしそれが長官の考えと一致しなければ、とことん議論して最善の道を見きわめていく……そんな職務であります。
長官の出した命令にそのまま従うのでは、参謀長の職責を果たしたことにはならないのです。
ここに参謀長と参謀の大きな違いがあります。
参謀は
『……参謀長の命を承(う)け……』
とあるように、参謀長の命令に服するだけであります。
仮にまずい作戦の責任を問われるとすれば、参謀長は長官と共に有罪であります。
長官の作戦に賛同したんですからね。
参謀たちは無罪。
参謀長の命令に従って、命令どおりの作戦を作るのが役目ですから。

長官の意見に異論不審があれば、臆することなく十分議論して長官の判断ミスを防ぐ。
参謀長の職務として一番期待されているのが、この「チェック機能」であります。
大まかな作戦の目的・内容を長官が参謀長に伝える。
参謀長がそれに納得した上で、作戦の立案を参謀に命じる。
できあがった案を長官・参謀長がふたりして十分に吟味する。
リーダーとデスクワーカーの間に立って、チェックの目を光らせるのが、参謀長の役目なのです。

このように司令長官に対して大きな権限を持った参謀長ですが、実際の指揮権はありません。
自分の部下である司令部幕僚……参謀や副官に命令できるだけで、艦隊に直接命令は下せません。
長官にアドバイスできるが指揮権はない、参謀長とは補佐役に徹した裏方であります。
このあたり艦隊令はじつにうまく作られております。
もし、このとおりに人が動けば……でありますが。
いかに俊英揃いの海軍軍人といえども、お互い相性もあれば好き嫌いもあります。
この参謀長のチェック機能がうまく働くかどうかは、長官と参謀長の組み合わせの如何にかかってきます。
せっかく参謀長に優秀な人材を持ってきても、長官との人間関係がうまくいかなければ、円滑にチェック機能を働かせようがありません。
反対にいくら仲がよくても、性格思考が似たもの同士でありすぎると、チェック機能の意味がなくなってしまいます。

前世太平洋戦争では、この司令長官と参謀長の組み合わせがうまくいかず、チェック機能は十分に働きませんでした。
ある司令長官は参謀長を嫌って棚上げし、専らある参謀だけを重用して失敗しました。
またある司令長官は、秀才の誉れ高い参謀長を盲信するあまり、その独走を止めることをしませんでした。
またある司令長官と参謀長は、どちらも一か八かの一発屋で、参謀長はチェックするどころか一緒になって突っ走り、とうとう帝国海軍を消滅させてしまいました……。
人事配置の巧みさで定評のある海軍省人事局が、なぜ、よりによってトップリーダーたちの組み合わせを過ってしまったのでしょう……結果論ではありますが、柔軟性を欠いた不適切なトップ人事も敗因の一つに挙げられます。

さて、司令長官内定の知らせを海軍省から受けると、未来の司令長官は「○○を参謀長に欲しい」と自分のめがねに適ったこれという人材を、人事局に指名することがありました。
大石長官もなにかで原さんを見初めて?「ぜひ参謀長に欲しい」と人事局に希望したのかもしれませんね。
いたって円満そうな大石長官と原参謀長ですが、参謀長としての機能を原さんはちゃんと果たしているでしょうか?
チェック機能は健在でしょうか?
どうも怪しいですね。
大石長官、参謀長になんの相談も説明もなしに、作戦実施しているようであります。
 原 「いまさらですが、宿題の答えがわかったような気がします。あえて正面から独海軍を打ち破ることによって……略」
 大石「まあ、今度は合格だ。褒美にコーヒーを淹れてやろう」
絵になるシーンではありますが……ある意味、とても怖い会話です。
大石長官、戦略的意義をスタッフに徹底しないまま、この作戦を実施したんですか?
原参謀長、ひょっとして立案にノータッチだったんですか?
チェック機能以前の問題なり(汗