◆混乱、ヴィクトリアクロス

大石×女王でぽつぽつSSを書き出したとき、やかんを混乱させたのがヴィクトリアクロス授与の時期でした。
例の、日本武尊の艦上で大石さんが女王陛下に勲章をつけてもらう場面は、第六話「超飛行艇白鳳」の冒頭にでてきます。
ナレーションで『照和22年末、英スカパフロー』と言ってたので、そーか年末か、冬なら温室なんかどうだろう――と、温室のバラの話を書いたわけです。
しばらくして「旭日年表」を作ろうとしたときにはじめて、あれ?と思いました。
時期がどうもおかしい。
照和22年末と言いますと、NC作戦も終わって日米講和も成立しています。
いくらなんでも、そんな遅い時期ではなかろう??
ヒトラー砲台の攻略は照和21年の2月。
作戦終了直後に英軍機から通信筒が投下されて、
「ほぉ、これはすごい! 英国のマーガレット女王陛下からの直接のメッセージだ。陛下は私にヴィクトリアクロスを授与してくださるそうだ!」
と大石さんがニコニコして喜んでましたよね。
そんなに早手回しに喜ばせておいて、実際の勲章授与が一年十ヶ月もたってからなのか??
そんなにぐずぐずしていたら、旭日艦隊はイーサに移転してしまいます。
それに第六話は、
『ときに照和22年3月、大高高野の不安の中、まさに戦局を左右する独第三帝国の英本土侵攻計画が着々と進められていた』
というナレーションで終わっています。
勲章授与の翌日にチャーチル卿が来艦して日米講和について言及していますので、ストーリーの進行上からも、冒頭の勲章授与のシーンが照和22年末ではつじつまが合いません。


この時点で『照和22年末、英スカパフロー』はどうやら台本ミス、もしかして照和21年末の間違いじゃないか?とようやく気づいたわけですが、2月初旬の殊勲に年末表彰というのも悠長すぎるような……。
もうOVAが初手から間違えているんだから、この際「照和21年末」が「照和21年春」でもいいんじゃないか……?
そんな考えがムクムクと湧き上がりまして、結局やかんの脳内設定ではヴィクトリアクロス受章を「照和21年春」だったことにしてしまいました。
やかんの脳内はそれで片が付いてたんですが、去年発売になったDVD-BOXの「旭日の艦隊」に【後世対戦史表】という年表がついていていたので、ヴィクトリアクロス受章がいつになっているか見てみますと――

照和二十一年末   旭日艦隊、英女王マーガレット一世の招待を受ける
              チャーチル卿、大石蔵良に英国亡命船団の護衛を依頼
照和二十二年早春  大高首相、本郷少佐の報告により、ヒトラーの人類家畜化計画を知る
              大高首相、英国特使として来日したチャーチル卿と対面
              西岡機長操縦の巨大飛行艇白鳳、スコットランドのネス湖に到着
              大石蔵良、米陸軍北大西洋戦域司令官アイゼンハワー元帥と密会
                       ――コンプリートDVD-BOX「旭日の艦隊03」
受章が21年末なのはともかく、その次の項目の日時を見て首をひねりました。
【照和二十二年早春 大高首相、本郷少佐の報告により、ヒトラーの人類家畜化計画を知る】
……??
本郷少佐がナチスの総統官邸に忍び込んだのは、心臓作戦の折の照和21年2月。
……それでは本郷さんがノイマン君とヒトラーの秘密文書を抱えたまま、丸一年も報告せず雲隠れしてたことになります。
白鳳はまだ就航してませんから、船・飛行機を乗り継いで遠い日本に着くにはおそらく一か月ほどかかるでしょう。
それでも2月初旬にドイツを発てば、本郷少佐一行は3月中には日本に到着できるはずです。
よって『大高首相、本郷少佐の報告により、ヒトラーの人類家畜化計画を知る』の項目は照和21年早春の間違いではないでしょうか。
どうやらこの【後世対戦史表】、オフィシャルでありながら信頼性に欠ける年表なのであります(涙


そこでもう一度、日時に注意しながらOVA第六話を見直してみました。

◆『照和22年末、英スカパフロー』(とナレーションでは言っている)女王が旭日艦隊訪問。
その翌日、チャーチルが大石を訪問。
大石さんが長官室でチャーチルにコーヒーを振舞う。 

◆『そして日本は早春、梅の季節を迎えた』(とナレーション)
画面に首相官邸の庭の梅が映り、バックでウグイスがホーホケキョ。
木戸外相が本郷少佐を伴って訪れ、ベルハウゼン博士亡命の件とヒトラーの文書のことを報告する。

◆『こうして大戦は比較的平穏なこう着状態を迎える。その間に大高は英国特使としてとして来日したチャーチル卿と対面、両国の絆を確認した』
チャーチル来日シーン。

◆『そして照和22年、大高の理想を具現化した白きオオトリの姿が北極上空にあった』
白鳳が雲の上を飛んでいるシーンがあって、ヒゲの西岡大尉と「照千一隅」のお札が映る。
白鳳は無事ネス湖に着水し、市民の歓迎を受ける。
そして西岡大尉は大石さんに待ち伏せされ、一杯引っかけた大石さんは月夜の湖畔にてアイゼンハワーと密会。
翌朝、帰途についた白鳳は北極圏で独軍に襲撃されるも、これを見事撃退。

◆『二日後、西岡機長からの報告を手土産に、高野五十六は総理官邸を訪れていた』
官邸の縁側で碁を打つ大高・高野。
庭には梅が咲いている。

◆『ときに照和22年3月、大高高野の不安の中、まさに戦局を左右する独第三帝国の英本土侵攻計画が着々と進められていた』
第六話、完。

OVAの内容から日時を拾い出して【後世対戦史表】を訂正すると以下のようになります。

照和22年末(台本ミスか?)旭日艦隊、英女王マーガレット一世の招待を受ける
その翌日            チャーチル卿、大石蔵良に英国亡命船団の護衛を依頼
照和21年早春         大高首相、本郷少佐の報告により、ヒトラーの人類家畜化計画を知る
その年の夏〜秋頃      英国特使としてチャーチル卿が来日
照和22年3月          西岡機長操縦の巨大飛行艇白鳳、スコットランドのネス湖に到着
その夜              大石蔵良、米陸軍北大西洋戦域司令官アイゼンハワー元帥と密会

さて、ここでヴィクトリアクロス受章の日時の問題に戻ります。
1) 大石長官の受章は、照和21年の早春(東京に梅が咲く頃)より前。
2) 21年の夏〜秋にチャーチル卿が来日してしまっているから、大石チャーチル会談は21年秋以前。
以上の根拠からヴィクトリアクロス受章の該当時期は『照和21年2月〜3月』となります。
OVAナレーションの『照和22年末』も【後世対戦史表】にある『照和21年末』も条件にあてはまりません。
OVAのナレーションは、なにかの台本ミスで『照和21年2月末』が『照和22年末』に化けたのか?
それともわざわざ年末にした理由があるのか?
気になったので荒巻先生の原作も確認してみました。

照和21年2月  ヒトラー砲台壊滅。ガーター勲章授与のメッセージを受ける。
その翌日     スカパフロー泊地にて燃料補給。女王の訪問を受ける。
そのまた翌日  チャーチル元首相の訪問。中華料理でもてなす。
           チャーチルの要請を受け、商船護衛のために出港を二日延ばす。
照和21年3月  木戸と本郷が首相官邸を訪れる。
照和22年3月
3/3 大高、京都で開催された「亜細亜宗教家平和会議」に出席。
3/4 比叡山延暦寺に参詣。
3/5 午前、大津基地に到着。白鳳を見送る。
  夜、首相官邸に戻る。東方エルサレム共和国大使と懇談。
3/6 夕、白鳳がネス湖に到着。
3/7 早朝、白鳳がネス湖を出発。

どうやら女王陛下はせっかちなお方のようです。
ヒトラー砲台が壊滅するやいなや、大石長官の叙勲を決定し、すぐさま軍用機を飛ばして日本武尊に連絡。
翌日にはご自身で勲章をもってご訪問。
まさに即断即行、恐れ入りました。

原作をもとに【後世対戦史表】を書き直すと次のようになります。

照和21年2月上旬  旭日艦隊、マーガレット女王の訪問を受ける
その翌日        チャーチル卿、大石蔵良に英国亡命船団の護衛を依頼
照和21年3月初め  大高首相、本郷少佐の報告により、ヒトラーの人類家畜化計画を知る
その年の秋      英国特使としてチャーチル卿が来日
照和22年3月6日   西岡機長操縦の巨大飛行艇白鳳、スコットランドのネス湖に到着
その夜         大石蔵良、米陸軍北大西洋戦域司令官アイゼンハワー元帥と密会

 結論としては2月なんですが……アニメ画面の女王陛下はとくに防寒対策をされていません。
 冬2月のスカパフロー泊地、ましてや吹きっさらしの甲板はそうとう寒かったはず。
 薄地のコートだけという軽装からすると、もっと暖かい時期のような気もします……思いっきり防寒下着を着こまれてるのかもしれませんが(^^;



原作では女王が大石長官に授けたのは「ガーター勲章」になっていますが、ガーター勲章はイギリス最高位の勲章で、別名ブルーリボン。
  「陛下は私にガーター勲章を授与したいということだ」――『旭日の艦隊3 北極突入作戦』123ページより引用
イギリスには九種類の勲章が存在します。
叙勲を受けると、勲爵士(ナイト)となって「サー」の称号を得ます。
(下位のブリティッシュ・エンパイア受勲者を除く)
最高位勲章であるガーター勲章を授与されると、ガーター騎士団の一員として、ウィンザー城内のセントジョージチャペルに旗印(バナー)が飾られます。
チャーチル卿、モントゴメリー元帥、サッチャー首相もガーター勲章を授与されましたが、外国人のガーター受勲者は王侯のみ。
ミッテラン仏大統領もヴァイツゼッカー独大統領も格下のロイヤルヴィクトリア勲章しか貰っていません。
日本からは明治天皇から今上天皇までのお四方がガーター勲章を受けられています。
(日本からはお返しに「大勲位菊花大綬章」が英国王、女王に授与されています)
――現在は今上天皇の菊の御紋章のバナーが「ガーター特別騎士アキヒト」として、ノルウェー国王ハーラル五世とウェストミンスター公爵のバナーの間に飾られています。


そんなベラボウな勲章を皇族でもない大石長官に授けるのは、いくら女王陛下の思し召しでも無理かと思われます。
そのせいかOVAでは「ガーター勲章」ではなく「ヴィクトリアクロス」に替えられてました。
ヴィクトリアクロス(ヴィクトリア十字章)は軍人を対象とした勲章です。
十字章(Cross)や記章(Medal)は、勲章(Order)とは違って叙爵には関係ありません。
……勲爵士になって「サー・クラヨシ」というのもいいんですが(大石さんは英国臣民ではないのでそうは呼べませんが)

コンプリートDVD-BOX「旭日の艦隊02」の【後世対戦史表】には
『照和21年2月 八咫烏、沈没。英国より、大石蔵良にガーター勲章授与との連絡あり』
と書かれています。
OVAでは画面でもセリフでも明らかに「ヴィクトリア十字章」なんですが、なぜか「ガーター勲章」になってます。
OVAのチャプターでありながら原作準拠?
【後世対戦史表】――もうワケワカラン。