◆秋の香り


レースのカーテン越しの朝の光がキラキラと金の髪を輝かせていた。
大石はコーヒーのカップをテーブルに置き、マーガレットの長い髪を手にとって光にかざしてみる。
日の光に透けてしまいそうな柔らかな輝きに大石は目を細めた。
……なるほど色素が少ないんだな。
指の間をサラサラと流れる金の髪。
……きれいだな。
大石は飽くことなくマーガレットの髪に触れる。
「どうかなさいましたの?」
「いや、あなたの髪は日に透かすと透明になるんだな」
え? と言うような顔をしてマーガレットが顔を上げた。
その前髪を大石は手にとって日に透かす。
「ほら。キラキラしてとてもきれいだ」
柔らかな金髪を優しくかき撫でると、今度は彼女の目をじっとのぞきこむ。
熱心なその表情にマーガレットは戸惑って目を伏せてしまう。
「いやな大石さま」
「あなたの目……こっちをごらん。日に透けると不思議な色だな」
大石は新鮮な興味を覚えたように彼女の瞳をのぞきこんでいた。
「こうしてゆっくり見たことがなかったんだよ。きれいなのは知っていたが」
マーガレットはこんなふうにじっと顔をのぞきこまれたことはない。
「いやだわ……」
「どうして?」
マーガレットの頬がうっすらと染まっていた。
大石は優しく微笑んだ。
「きれいだな……」
髪を撫で、頬に触れ、大石はマーガレットを飽きることなくみつめる。
長かった戦争も終わり、こうして無事マーガレットのもとに帰ることが出来た。
旭日艦隊は解散し、大石も司令長官の重責から解放された。
もう心置きなく、彼女を愛せる。


栗色のまつげがくるりとカールしている。
同じ色の眉が三日月のように優しい弧を描いている。
瞼がぱちぱちと瞬き、日の光に眩しそうな青い瞳が困惑気味に大石を見返した。
「人形みたいだ」
そっと抱き寄せると、彼女の瞼が恥ずかしそうに閉じられた。
……可愛い。
まばゆい陽の光の下で見る彼女に、大石は新鮮な欲望を感じた。
……怒るかな?
そうは思うが、
……かまうものか、遠慮は要らん。始めてしまえばこっちのものだ。
そんな図々しい計算も頭をもたげる。
大石は両腕に力を入れると、彼女を軽々と抱き上げた。
マーガレットは驚いて小さな声を上げたが、大石は構わず彼女を抱きかかえたまま、居間を横切っていく。
「大石さま?!」
寝室のドアを開けるのに、大石は立ち止まった。
「下ろして!」
大石の意図を悟ってマーガレットが赤くなって抗議した。
「暴れないでくれ、危ないじゃないか。よっ……と」
器用に片手をドアノブのほうに捻じ曲げて、大石はドアを開けた。
後は肩でドアを押し、後ろ足でバタンと閉じる。
「何を考えてらっしゃるの、やめて!」
「何って決まってるじゃないか? こら、危ない」
子供のように足をばたつかせるマーガレットを、大石は難なく押さえてベッドに運んだ。
「さて、着いた」
ベッドに優しく下ろされると、マーガレットは猛然と起き直った。
「いや!」
「何を遠慮することがある? もう結婚したんだし」
「いやです!」
「どうして」
「いやったら、いや!」
「いやでもいいから、じっとしといで」
怒る彼女に取り合わず、大石は彼女に腕を伸ばした。
ばふん!
羽毛のクッションが勢いよく大石の伸ばした腕に打ち下ろされた。
「わっ! なにをする!」
「あっちへいらして!」
クッションを手にしたまま、マーガレットは肩を怒らせた。
「そうはいかん」
大石が笑って彼女に再度飛び掛ろうとしたところ……。
ばふっ!
マーガレットが力いっぱい振り下ろしたクッションは、今度は大石の顔面を直撃した。
「うっ!」
さすがに大石は顔を抑えてベッドの上に倒れこんだ。
「しつこくなさるからよ、いいかげんになさって。……大石さま? ねえ、大石さま?」
「……」
「……ああ大石さま、ごめんなさい、しっかりして」
倒れたまま身動きをしない大石に、マーガレットが動転して縋りついた。
「ははっ、ひっかかった!」
死んだ振りをしていた大石が、がばっと起き上がる。
そしてそのままマーガレットを両腕にしっかりと抱え込む。
しかし彼女はもう抵抗もせず怒りもしなかった。
大石はマーガレットの顔をのぞきこんだ。
「あ……泣いているのか。……そんなにおどかしたか? なあ、冗談だよ。私はなんともない……」
「……」
「すまん……」
「……」
大石は彼女からそっと手を離した。
ちらっと大石を睨んだ彼女の目には大粒の涙が浮かんでいた。
悪ふざけがすぎた……大石が今頃しまったと思ってももう遅い。
「その、悪かった。もう嫌がることはしないから」
「……」
マーガレットは唇をかんだまま一言も口をきかない。
バツの悪そうな顔になると、大石はベッドから腰を浮かして後ずさった。
「マーガレット……すまん、もう向こうへ行くから許してくれ」
ばんっ!
ドアを開けて寝室から立ち去ろうとした大石の背中にクッションが勢いよく飛んできた……。