◆草上で


「ここは、どこだ……?」
私はぼんやりとつぶやいた。
新緑の木々、緑の草原。
木立の下の柔らかな下草の上に前原が笑顔で座っている。
「前原? ……どういうわけだ?」
前原は懐かしそうに私を見て微笑んだ。
「総長……来てくださったんですね」
「私にはわけがわからんのだが?」
「うふふ……」
前原は目を伏せると低い笑い声を漏らした。
秘密めかした誘うような声。
ちら、と私を見上げた彼の目には明らかに意味があった。
私たちの間だけに通じるある意味が。
私は思わず彼の前に膝をつき、彼の顔をのぞき込んだ。
「総長、これは私の夢です。あなたは私の夢の中に来てくださったんですよ」
夢? これが?
「夢ですよ……ふふ」
目の前の彼はいつの間にか服をすべて脱ぎ捨てていた。
前原は私の視線に平然とその均整のとれた裸体を晒していた。
引き締まったしなやかな身体を私に誇示するがごとく、前原はゆっくりと草の上に横たわる。
「総長……」
さあ、と前原は私に手を差し伸べる。
前原は微笑んでいる。
優しげに涼しげに。
しかしその表情の奥には強い執着……私への、そして私が彼に与えることのできる悦びへの執着が燃えている。
「前原……」
いいのか? いまここで、おまえにそれを与えても。
私の躊躇の裏の昂りを見透かすように彼がまた低く笑う。
「総長、さあ……」
前原の目が私を促す。
「夢なんですよ、これは。だから……」
夢なのか。
たしかに私までもが都合よく素裸になっていた。
「だから、あなたの思いのままにしてくださっていいんです……」
いつも愛し合う前に見せる前原のあの笑顔。
熱に浮かされたような、どこかうつろな目の色が堪らなく私の欲望を刺激する。
……いいんだな?
誘われるままに彼の上に屈みこむと下草の青い匂いがむっと香る。
前原は私の背に腕を回してすがり付いてきた。
「ご存分に……」
私の耳元にそう囁いて、彼は耐え切れないように甘く呻いた。
ふたりの重みに押し潰されて、草の匂いは一段と強くなった。